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パジャマを脱がして。

思ったこと、考えたこと、コンプレックスを記録するブログ。

好きだった人の話


泉まくら - 君のこと

 大学生の時、好きだった人がいた。その人が夢に出てきて、いろいろと思うことが出たため、したためることにした。

 

 彼とはバイト先で知り合い、共通の知り合いもいたから仲良くなるには時間がかからなかった。

 明るくて、よく笑い、よく気が付く、だけど少し坊ちゃん気質というか面倒を看てあげないとならない抜けた所があって、とても良い感じの男性だった。一方の私は協調性に欠けており、面倒を看なければ頼ることもしないタイプで、そのことは自覚していたし気に病んでいたから、彼の人懐こさのおかげでバイトに溶け込めたことに今でも感謝している。

 また、私と彼はオタク趣味という共通点もあり、お互いに好きな作品をすすめあったりしていた。二人ともオタクであることを隠すつもりもなかったため、リラックスして好きなものの話ができることはとても楽しかった。

 私が彼―以降Tくんとする―を好きになったのは、はっきりと思い出せない。最初から好きだったとも言えるし、思い返して好きになったのかもしれない。それなのに学生時も今も、Tくんのことを考えると「好きだなぁ」と思い、少しだけ微笑んでしまうのだ。

 

 Tくんとは大きなケンカやいがみ合いはしたことが無い。ただ、一方的にわたし一人でモヤモヤしたり、やきもちを妬いたことはある。

 社交的なTくんは彼の専攻の関係もあって、よく女の子といた。最初は何とも思っていなかったし、わたしも専攻の関係でよく男の子といたくせに、いつの間にか女の子たちと親しげにしているTくんを見たくないと思っていた。女の子に囲まれたTくんを見ても何もなさげにしていたつもりが、ムッとしていたこともあったようで、一度Tくんに「どうしたの?」と、突っ込まれたことがある。

 「俺が女子に囲まれていて、やきもち妬いているの?」

 と、笑いながら言われ、恥ずかしいやら、気を使わせたことへの申しわけなさやらでどきどきしながら、

 「そうだよ」

 と、ぶっきらぼうに言ってしまった。私はそのまま講義に行ったため、Tくんの顔を見ていない。その後バイトで会った時に、「ごめんね」と謝られた。Tくんは犬顔だったため、怒られた犬にそっくりで余計に申しわけない気持ちになった。私も謝り、その日のTくんの賄いはいつもより多めに盛り付けてあげた。

 こんな我がままなことをしてもTくんは一度だって私を怒ることをせず、冷たくあしらうこともなかった。

 

 

 私はTくんのことが好きなのに、一方で他の男性に言い寄られたらお付き合いしてしまうルーズなやつだった。

 と言うのも、別にわたしとTくんが恋人どうしでもなければ、Tくんのことが好きだとはっきり言ったこともなかったため許されるだろうと思っていたからだ。それ以上に、「好きな人くらいいないといけない」「この年齢になったら、こういう人付き合いをしているのが当然」と言った考えに過剰に怯えていたため、別に好きでもない人と付き合ったりをしていた時期があった。そんなものだから、交際相手にさほど情もわかず、すぐに別れてしまうことを繰り返していた。

 おそらく共通の知り合いを通じて、わたしのだらしなくて破たんした恋愛生活は筒抜けだったろうが、Tくんは一度も男女交際に関して苦言を呈したり、茶化すことがなかった。そういう所が余計に好きにさせた。ただ好きではあったものの、付き合いたいとはならなかった。付き合うには秘密が多すぎるな、と自分のコンプレックスを気にしていた。半分は自業自得だけど。わたしは昔からめんどくさいのだ。

 Tくんはと言うと、彼女ができたと聞いたことはなかった。本人もよくモテないネタを口にしていたけど、そんなことはなかった。少しクセのある人だったけど、問題視するようなものではなかったし、Tくんが好きだという女子もそれなりにいた。なのに彼女ができなかった(作らなかった?)理由はわからずじまいだったし、何となく知りたくない気持ちもあった。

 

 週の半分はバイトで会い、時々バイト上がりに食事をしたり、あても無く散歩をしたりし、好きなアニメの話やそれぞれの研究や将来の話をするだけの関係だった。結局、深入りせず、性別等どうしようもない所で変な線引きをしない相手だったから、居心地が良かっただけかもしれない。そんな相手に自力で出会えたから嬉しかっただけかもしれない。

 大学進学に合わせて一人立ちするまで、親からの干渉に悩まされていたため、ほとんど自分で納得し決断することがなかった。そんな人間が自力の美味しさを覚え始めた時に出会ったのがTくんだったから、忘れられないくらい好きになったのかもしれない。

 

 

 忘れらない出来事がたくさんある。バイト終わりに買ってくれた缶コーヒーの銘柄や、直らなかった変な寝癖や、褒められたスカートや、本当に些細なことばかりだけど。唯一、些細ではない出来事もある。

 最後に一緒にバイトをして、いつものようにコーヒーを飲みながらアパートの近くの公園で話していた。話しながら、もう、こうすることもできないのか、と思ったら少しだけしんみりし、何となくお互い黙ってしまった。黙っていたらTくんがキスをした。びっくりしたとも、待っていたとも思わなかった。されるのが当然だし、もう一回できることもないと、妙に冷静な頭で思っていた。

 「しちゃった」

 えへへ、とTくんは笑っていた。わたしも好きな人からスキンシップを得た喜びと、Tくんが笑っていることが嬉しくて笑った。

 なぜTくんがキスしたのかは分からない。けれど知りたいとも思わなかった。恋人どうしでもなく、友人として深い仲でもないのに、自分たちはキスして当然の仲だと言う気持ちだった。

 

 

 夢で会ったTくんは最後に見た時と同じだった。夜道を自転車を押しながら送ってくれて、笑いながらいつものように「おやすみ」と一言くれ、わたしはアパートに帰った。そんな夢だった。

 後にも先にも、Tくんのような気持になれる関係性は築けないだろう。好きと言っても、不思議な気持ちになる。言いようがないから好きと言うかのような。

 遅い初恋を思い出した話。